ゆっくり吸収されるカロリーで最強を目指す スローカロリー研究会講演会レポート

2016年3月11日

一般社団法人スローカロリー研究会」(理事長:公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長・宮崎滋氏)が3月1日に東京で「第2回講演会」を開催した。
 ゆっくりと糖質が消化吸収される「スローカロリー」が肥満や生活習慣病の予防・改善につながり、日本人の食生活の課題を解決する鍵となる可能性がある。「スローカロリー研究会」は、糖質の"質"に注目し、健康的な生活スタイルを提案する取り組みを行っている。

 スローカロリー研究会が提唱する「スローカロリー」は、糖質の消化・吸収速度がゆっくりであることを示す。カロリーがゆっくり吸収される食品を選ぶことで、糖質の吸収が遅くなり肝臓への糖流入速度が遅くなる。血糖値がゆっくり上昇・低下し、インクレチンの分泌を高めて適量のインスリンの分泌が促され、内臓脂肪の蓄積が抑制され、糖尿病の発症、血糖の上昇を抑制することができる。

食事のバランスを考え肥満や生活習慣病を予防・改善

第2回スローカロリー研究会講演会
最強宣言!「スローカロリーで世界一を狙おう!」
日時:2016年3月1日(火)
場所:ベルサール八重洲(東京都中央区)
内容:
「これからのスローカロリー啓発に向けて=次年度事業計画より」
 ・宮崎 滋先生(一般社団法人スローカロリー研究会理事長・公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長)
基調講演「健康長寿の秘訣はスローカロリー」
 ・家森幸男(武庫川女子大学国際健康開発研究所教授)
アスリート鼎談「スローカロリーで世界一を狙おう」
 ・大谷憲弘氏(パワーリフティング74kg級日本記録保持者)
 ・鈴木志保子先生(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科教授)
 ・森真理先生(武庫川女子大学国際健康開発研究所講師)

 現在の日本人は一般的に肥満になりやすい食生活をおくっている。エネルギー摂取量と糖質摂取量は1970年代から年々減少しているが、日本人の食生活は栄養バランスの良い日本食から脂肪摂取量の多い欧米型食事へ変化している。それに合わせるよう、日本人のBMI(体格指数)は上昇し肥満が増えている。

 日本では「肥満やメタボリックシンドローム」「2型糖尿病や高血圧などの生活習慣病」「高齢者の低栄養やサルコペニア」「若年女性の不健康な痩せ」などの増加が公衆衛生上の課題になっている。これらを防ぐポイントとなるのは適切なエネルギー(カロリー)の摂取と、食品の組み合わせを考慮することだ。腹八分と運動により適正体重を維持し、炭水化物を量的・質的に調整し、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐことが重要になる。

 「食の基本は、三大栄養素のタンパク質、脂肪、炭水化物(糖質と食物繊維)のバランスです。三大栄養素については、各栄養素の過不足が起きないよう注意することが重要です。中でも糖質の摂取には注意が必要です」と、宮崎氏は指摘する。

 糖質の中には小腸上部で早く吸収されるものや、小腸下部まで届きゆっくり吸収されものがある。糖質をゆっくりと吸収する食生活により、代謝を高め脂肪が燃焼しやすくなる。吸収速度がゆっくりだと満腹感を得やすくなり腹持ちも良くなり、結果として毎日の摂取エネルギー量を抑えられ、肥満を防止できるようになる。

糖質は生きるために必要なエネルギー源

 「スローカロリー研究会」は生活習慣病予防の観点から、糖質の「質」に着目し、どのような糖質をどのように食べるか、どのように代謝されるのかを検討することを重要なテーマとしている。また、糖質の「量」の観点から、食べ過ぎず偏り過ぎない食事スタイルを提案し、糖尿病の食事療法で応用されている「カーボカウント」まで視野を広げて検討している。

 食事の量を「腹七~八分目」、つまり適度に制限した方が長生きすることを示した研究がいくつか公表されている。加えて重要なのは食事の質で、消化吸収が遅いグリセミック指数(GI)の低い玄米や全粒粉などの食材は、腸でゆっくり消化吸収されるため、肝臓への糖流入速度が遅く、血糖値の急速な上昇を抑えられると注目されている。ごはんを中心とし食物繊維が多くとれる日本食は理にかなっているといえる。

 糖質制限ダイエットを行う人もいるが、過剰な糖質制限によって、必要な栄養素のひとつを極端に減らすと栄養バランスを欠くことになる。また、急な食事制限をすると、タンパク質がエネルギー源として分解されるようになり筋肉量が減ってしまい、その結果、かえって代謝が低下して太りやすい体質になるおそれがあるという。

 「人はそれぞれの生活環境の中で、年齢や体調、趣向に合った食を選択しなくてはなりません。中でも、糖質は私たちが生きるために必要なエネルギー源であり、思考や活動のために中心的な役割を果たしています。糖質摂取量が極端に落ちると、思考力や活動力も落ち、栄養バランスが崩れてきます。むしろ、糖質を適切に摂取することが必要です」(宮崎氏)。

日本人の食文化はもともとスローカロリーだった

 家森幸男・武庫川女子大学国際健康開発研究所教授は、世界中の国々で、24時間にわたる尿を採取し、客観的な栄養マーカーを調べる方法で評価を行ってきた。「世界ではスローカロリーとは逆の食生活が急速に広がっています。例えばアフリカの都市部では高カロリーの清涼飲料やファストフードの摂取が増え、結果として肥満が増えています。インド、インドネシア、スリランカなどの国でも同様の傾向がみられます」と、家森氏は言う。

 米を中心とした日本人の食文化はもともとスローカロリーだった。日本で精製された米が食べられるようになったのは江戸時代になってから。それまでは玄米や雑穀などが食べられており、そうした食品は血糖値の上がり方がゆっくりで、肥満を引き起こしにくい。加えて、日本人は主食とともに血糖値の上がり方がゆっくりとなるおかずを一緒に食べていた。

 スローカロリーなおかずのひとつに豆腐などの大豆食品がある。大豆食品をよく食べている地域では、高血圧の人が少なく、コレステロール値も低く、さらに心臓死が少ないことが分かった。大豆に含まれるイソフラボンが、血栓ができにくくし、心筋梗塞を防ぐ働きをしていると考えられる。

 魚を多く食べることも素晴らしい食習慣だ。魚にはアミノ酸や、DHAやEPAといった多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれる。米食を中心に大豆や魚を食べる食習慣でスローカロリーを実現し、長寿を実現しているといえる。

スローカロリーで生活習慣病を予防・改善する

 「人類の食文化を考えると、活動するために脳や筋力の"エネルギー源としての糖質"が必要不可欠です。しかし、世界中で食の欧米化が進んでしまい、脂質を過剰に摂取し、糖質の消化吸収が速い "ファストカロリー"の食が急速に広がり肥満や生活習慣病が急増しています。糖質の消化吸収に注目し"スローカロリー"に変えていくことで、生活習慣病を確実に減らせる可能性があります」と家森氏は指摘する。

 家森氏らの調査では、世界の都市部に住む人ではマグネシウムの摂取量が減少しており、マグネシウムを十分に摂取している人は少ない人に比べて肥満が少なく、血圧値やコレステロール値も低いという結果が得られた。マグネシウムは「ATP(アデノシン三リン酸)」によるエネルギー生成を助ける働きをし、不足すると細胞の中にナトリウムが蓄積され、結果として血圧が上昇しやすくなる。

 マグネシウムは食物繊維と関係が深く、マグネシウムの多い食品の多くに食物繊維も豊富に含まれる。米は精白しなければ5倍のマグネシウムが含まれ、魚や海藻類、大豆、ナッツ類にも多く含まれる。伝統的な日本食はマグネシウムや食物繊維を十分に摂取するために有利だといえる。

パワーリフティングのチャンピオンが語るスローカロリーのメリット

 バーベルを肩に担いでしゃがみ、立ち上がるスクワット。ベンチ台に横になり、胸の上でバーベルを持ち上げるベンチプレス。床に置いたバーベルを垂直に持ち上げるデッドリフト。これら3種目の重量を競い、合計重量で優勝を決める競技が"パワーリフティング"だ。この競技の第一線で活躍するのが大谷憲弘氏。2015年に行われた選手権大会の74kg級では日本新記録を樹立し、2年連続で優勝した。

 トレーニングをするうえで欠かせないのが、トレーニングを通して糖質とアミノ酸を摂取することだ。アスリートにとって、運動時のパフォーマンスを向上するために栄養管理が重要となる。カロリー、炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く摂り、ビタミン、ミネラル、水分を適切に補給することが、体を理想的に機能させるために欠かせない。

 減量時に筋肉を維持するには、タンパク質の補給と運動が大切だが、糖質(炭水化物)の影響も大きい。運動時のエネルギー源となるのは糖質だ。糖質をカットし過ぎるとエネルギー不足で力が出ず、疲れが抜けず、十分なトレーニングができなくなるおそれがある。

スローカロリー効果的な摂取の方法

 一般的に、運動中にはグリコーゲンが分解されて糖になり、糖がエネルギーの源として使われる。そのためアスリートにとっては、運動時に糖質を適切に摂取することが重要になる。グリコーゲンの枯渇を抑えるために、運動の1時間くらい前に食品を摂取すると効果的だ。

 「糖質は体内でグリコーゲンとして保管され、その量が運動時のスタミナと持久力に影響します。筋肉に貯蓄されているグリコーゲンがなくなると、疲労感を感じやすくなり、パフォーマンスが低下します。さらには糖新生により筋肉が失われる原因になります。運動をする人にとって糖質を適切に摂取することが重要です」と、鈴木志保子・神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授は言う

 ただし、糖質なら何を食べても良いということではない。糖質の過剰摂取は血糖値の上昇につながるので注意が必要だ。スローカロリーであればゆっくりと吸収されるため、パフォーマンス中も糖質の不足を起こしにくくなる。血糖値の上昇や低下を起こさずに体を最高の状態で機能させるためにスローカロリーが必要だ。

 「食事の内容に食材をちょっと工夫することでスローカロリーを実践できます。ただしスローカロリーでも、運動やスポーツの場合は食物繊維が豊富な食品で早く満腹になってしまい、必要なエネルギー量が摂取できないので、パラチノースのような糖で補給すると効果です」と、鈴木氏は指摘している。

「パラチノース」はスローカロリーの代表的な食品

 スローカロリーの代表的な食品として「パラチノース」がある。パラチノースは砂糖由来の糖質で、カロリーは砂糖と同じ4kcal/gだが、消化吸収速度が砂糖の約5分の1と遅い。パラチノースを含む糖質は「スローカロリーシュガー」という名前で商品化されているほか、スポーツドリンクやプロテイン食品などスポーツ関係のさまざまな食品にも使われている。

 「パラチノース」摂取による血糖値およびインスリン分泌の変化は2型糖尿病でも緩徐であり、健常者のインスリン抵抗性を軽減させることが研究で確かめられている。また、肥満者にパラチノースを長期摂取させた研究では、内臓脂肪面積を有意に減少することが示された。さらに、「パラチノース」を摂取すると、血糖値を下げるホルモンである「グルカゴン様ペプチド(GLP)-1」の分泌が促進されたことが報告されている。

一般社団法人 スローカロリー研究会
 スローカロリー研究会は、スローカロリーの有用性について調査・研究を進め、健康づくりのための食生活を指導する医療・保険指導従事者と一般生活者に向けて、その知識を普及することを目的に2015年に設立された。
「スローカロリー」は、多くの効用があることがさまざまな研究で明らかになっている。同研究会はその活用についてさらに検証し、データを蓄積していくことを活動目的としている。糖質をどのように摂取するか、関連領域の専門家の視点からその可能性を見出していく活動を展開している。