企業インタビューシリーズ❸勝つための栄養プログラム「WINGRAM」―スローカロリーでアスリートを支援する株式会社ブルボン

2022年6月27日

 株式会社ブルボンは、スローカロリー研究会発足時からのメンバーで、スローカロリーに関する研究活動とスローカロリー製品の販売を行っています。本日は、そのような企業活動のベースにある企業理念、スローカロリー製品の開発、そして今後の事業展開の方向性などを同社の室橋尚子氏(安全・健康情報室、スローカロリー研究会理事)、田邉 学氏(機能性食品開発課)、峰尾 茂氏(先端研究所 栄養科学研究室)に、当研究会の宮崎 滋理事長、宮下政司理事、樫村 淳理事でお話を伺いました。

―最初にブルボン社のスローカロリー関連商品である「ウィングラム(WINGRAM)シリーズ」についてお尋ねいたします。どのようなブランドコンセプトで始められたのでしょうか。

田邉 「ウィングラム(WINGRAM)シリーズ」は、持久系アスリートをサポートする商品群です。競技で勝つための栄養プログラムというコンセプトで立ち上げました。ブランド名の「ウィングラム」とは、「勝つ」という意味の「Win」と、プログラム(program)の語尾の「gram」をつなぎ合わせて「WINGRAM」としました。

 「WINGRAM」開発のスタートは、青山学院大学陸上部との共同開発でした。パラチノースという素材の特徴である、ゆっくりと消化吸収される糖質であるということ、そして砂糖に比べて甘さが控えめであるという点が、持久系のアスリートの運動パフォーマンスに寄与しているのではないかと考えたことが発端です。

 それが、「エナジックウォーター」という飲料、そして「ハイカーボ300」というゼリー飲料といった製品の開発につながりました。開発時は、青山学院大学と、味や品質等について情報交換させていただきながら決めていきました。

 「エナジックウォーター」は、既存のスポーツドリンクは全般的に甘くて飲みにくいという意見が多かったため、パラチノースを用いて程よい甘さに調整しました。それでいて、持久系スポーツのエネルギー基質として重要な糖質はしっかり摂れるという機能性も実現できました。

 「ハイカーボ300」については、少量でより多くの糖質とカロリーを摂れるゼリーがアスリートから求められているということが、青山学院大学のインタビューから浮かび上がったことが端緒です。製品の特徴は、パラチノースを高配合して1袋で糖質75g、エネルギー量にすると300kcal摂れるという点です。一般的なゼリー飲料の糖質含有量は、だいたい40~50g程度ですから、他社製品とはかなり差別化できていると考えています。

 なお、スローカロリー商品としては、「スローバー」というパラチノースを配合した栄養バー商品を販売しています。その後「WINGRAM」シリーズとしてブランドを統一し、「スローバー」などを含めて、ブランド力の強化と品ぞろえの充実を図っています。

女性スタッフの悩み「お腹が鳴って恥ずかしい」から開発がスタート

―最初に商品化されたという「スローバー」について、血糖値に着目された背景と商品誕生までの経緯などをお聞かせいただけますか。

田邉 「スローバー」は2010年の春に発売しました。当時は、ダイエットと言えば、摂取エネルギー量をカットすることとイコールのような考え方が主流でした。そのような中、糖質の質に起因する新しい視点での商品提案もあってしかるべきではないかとの考えのもと、スローバーの開発に着手しました。

 当社は菓子メーカーですから、糖質の使い方については研究を重ねてきたところがありますので、パラチノースの特徴を生かした製品づくりができたのではないかと考えています。

室橋 開発の経緯ということで補足しますと、スローバーの開発スタッフの女性から、仕事中にお腹が鳴ってしまうことがあり恥ずかしいという話がでて、同じような思いを経験している女性が多いことがわかりました。学生時代の授業中にも同じ体験をしたとの声もありました。

峰尾 満腹感を想起させる商品は、コンニャクマンナン等を使用するなど競合他社からも発売されていましたが、イメージ商品に留まっており、科学的根拠については乏しい状況でした。

 ちょうどそのころ、三井製糖㈱様より消化吸収が穏やかであるなど興味深い研究報告がされているパラチノースを紹介いただきました。消化吸収が遅いから腹持ちがいい、満腹感が続くという特徴は、まさに当時の開発スタッフの女性の悩みの解決につながると考えられ、商品化がスタートしたというわけです。パラチノース配合クッキー(=スローバー)について、三井製糖様と共同でヒトボランティアによる満腹感持続効果について検証しています。

 発売当初は現在とは異なり、ターゲットは「働く女子」としたことからパッケージデザイン、CM、モニター広告なども一貫した販売戦略でした。

田邉 ところが発売後、意外な反響が寄せられだしたのです。例えば、ゴルフのラウンド前にスローバーを食べておくと、後半も疲れずに回れるといった話をよく聞くようになりました。そこで、男性でも購入しやすいデザインに変更し、さらに、スポーツ領域にアプローチしていったという流れです。

 そうこうするうちに、トライアスロンや登山関連の雑誌でも取り上げられたりしました。このような反響や実際の使われ方は、われわれのアプローチ戦略の参考にもなりました。

―先ほど、青山学院大学陸上部との共同開発のお話をお聞かせくださいましたが、開発段階での選手の声はいかがでしたか?

室橋 アスリートの方は飲みやすさを最も重視されることが多かったです。そのため、試作品のフレーバーを何度も変えて試していただきました。それまでのスポーツドリンクにあった「飲みにくさ」を解消し、甘さを苦にせず摂取できる製品にしていくために、合宿中に試飲していただくなど、試行錯誤を重ねました。

素材コストを上回る機能性を訴求

宮崎 ブルボン社の製品展開にパラチノースの機能性がちょうどよくマッチしたということですね。ただ、パラチノースを使いますと、コストという点で競争力がそがれるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。その点は、スローカロリーという製品特性でカバーできているということでしょうか?

樫村 ご指摘のように、パラチノースは甘味が砂糖の約2分の1で、素材価格は約2倍ですから、同じ甘さを出そうとすると約4倍のコストになります。これは当初、ハンデと考えられていました。ただし、甘さが砂糖の半分というのは、必ずしもデメリットではなく、製品によってはそのほうが良い場合もあるようです。ブルボン社の製品もパラチノースのそのような特性を生かしながら、付加価値を高めていらっしゃると理解しています。

田邉 他社と比べるとスローバーはバー商品では後発でした。ですから味や品質が良く、かつ他社より低価格で提供することを目指しました。パラチノースを用いることはコスト面で確かに不利ですが、そこは工夫しました。

産学連携研究について

―少し話題を変えまして、ブルボン社の研究支援体制についてお伺いします。研究支援に関して、何か基本的な考え方やコンセプトのようなものはございますか?

峰尾 他の会社もそうだと思いますが、産学連携は重視して取組んで参りました。社内のスキルやノウハウ、リソースが足りない部分を補うという意味でも、あるいは機能性食品の開発に欠かせない諸々の試験はアカデミアとの連携がなくては成り立ちません。

宮下 産学連携の共同研究は、御社内で不足しているリソースに対してアプローチしていくというお話ですが、新しい観点でのテーマをどのように決めていかれるのでしょうか。何か御社として、共同研究におけるコンセプトなどはありますでしょうか。

峰尾 共同研究としては、例えば、糖質をテーマとしていくつかの共同研究を行ったことがあります。砂糖の代替としてのパラチノース、小麦粉の代替でお米というように、糖質あるいは炭水化物を基軸にした研究です。また、行政の支援を受けながら、地域の素材を特産にしていくというというテーマもあります。そういった研究がすべて成果につながっているのかと言われれば、必ずしもそうだとは言い切れません。しかし、そのような研究を継続することで、何らかのストーリーのようなものが描き出されていくのではないかと感じています。テーマがうまく結果につながっていくように、今後も私どもなりに努力していきたいと思っています。

―昨年来、新潟大学との共同研究の成果が複数の論文として発表され、当研究会でもご紹介しました。パラチノースが暑熱下での運動に伴う脱水の補正に良いのではないかという趣旨でした。そのような産学共同研究の成果を販売促進につなげることは可能でしょうか。

室橋 論文を商品のプレゼン等に直接使うことは、なかなか難しいことが多いですね。商品特徴や使用シーンをわかりやすくお伝えするようにしていますが、課題ではあります。

樫村 新潟大学の論文は暑さ対策でした。最近では熱中症が問題となっています。産学連携のメリットを生かして、現在なにか新しい展開を考えていらっしゃいますか?

田邉 熱中症対策という点で、商品展開するにはまだ課題があると捉えています。パラチノースを使用した新しい用途の商品開発に向けて更なる検討が必要と考えています。

宮下 青山学院大学との連携で、当初は飲みやすさを重視し開発を進められたとのことでしたが、飲みやすさ以外では、どのような点に留意されたのでしょうか。

室橋 ゼリー飲料に関しましては、筋グリコーゲン維持や筋タンパク異化抑制には、十分な糖質摂取が必要ですから、飲みやすく、それでいて糖質をしっかり摂れる製品を目指しました。

―ところで、御社は水球チームや水泳のイベントをよくスポンサードされていますね。水泳選手もパラチノースを使っておられるのでしょうか?

室橋 当社が本社を構えます新潟県柏崎市は水球が盛んです。そのご縁で、地元の水球チームを応援しており、商品を試して頂いたりします。この水球チーム「ブルボンウォーターポロクラブ柏崎」に所属されていた元水球日本代表の志水祐介氏が本年現役を引退されたのを機に、この度アスリートサポートプログラム「ウィングラム」のアンバサダーに就任されることになりました。当社では、今後の志水氏の活動をウィングラムブランドでサポートしてまいります。

 その他にも、持久系スポーツである自転車競技やダンススポーツに対し「ウィングラム」提供などのサポートを行っています。

生活習慣病対策としてのスローカロリー戦略

宮崎 高齢者のお話が出ましたが、高齢者の生活習慣病対策としてのスローカロリーについては、どのようなスタンスかお聞かせいただけますか。 と言いますのも、いま高齢者人口が増えていますが、70歳を超えると4人に1人は耐糖能異常があるのですね。そういった人たちへの商品開発戦略があってよいと思うのです。夏場の熱中症対策としてのスポーツ飲料の飲みすぎによる急性代謝障害、いわゆる「ペットボトル症候群」あるいは「ソフトドリンク症候群」のリスクが懸念されるようなこともありますので。アスリート以外への製品展開はどのようにお考えですか。

田邉 アスリート以外ということでは、女性をターゲットとして糖質オフの「カーボバランス」というシリーズを販売しています。罪悪感なしに口にできる菓子、いわゆる「ギルドフリー」というコンセプトです。一方、「高齢者は血糖値が上がりやすい、しかしエネルギー源である糖質を摂る必要がある」というご指摘はたいへん重要です。血糖への負荷が少ないながら糖質を摂れるパラチノースは、シニア向けに最適な糖質となり得るのではないかと感じます。その特性を活かした製品展開が今後の課題です。生活習慣病と関連づけた製品展開は市場として魅力ですが、機能性を訴求するには、ハードルの高さが気になります。

宮崎 確かにそれはあるかもしれませんね。

宮下 高齢者の食欲低下に対して、しっかりとエネルギーを補給できるという点は重要だと思います。また、高齢者に限らず若年者に多い欠食への対応も、重要ではないでしょうか。朝食を摂りませんと、昼食時に「second meal effect」が生じず、インスリン分泌または血糖値の上昇幅が大きくなることが知られています。パラチノース等を含めた低GIの糖質が、その抑制に役立つ可能性があり、そういった提案を含めた製品展開があっても良いのではないかと感じました。

血糖変動の可視化とスローカロリー普及への今後の展開

―血糖値を連続的に測定できる非侵襲性のデバイスの登場により、血糖変動が一般の方にも可視化されることによって、スローカロリーの将来にどのような期待があるでしょうか。あるいは、当研究会が果たす役割はどのようなことだとお考えでしょうか。

室橋 間食の血糖変動を食品ごとに比較した図などもよく見ますが、 スローカロリー食品や普通の食品を摂取したときの血糖値の変化が見えれば、インパクトがあると思います。

樫村 一般の方には、血糖値への認識はまだまだ高くないと感じています。それがスローカロリーの認知度にも影響していると思いますが、非侵襲性のデバイスが普及していくと、血糖値に関する情報が広く一般の方にも浸透していくことで、スローカロリーに関する風向きが変わっていくのではないかと期待しています。

室橋 糖尿病の方でもない限り血糖値を毎日測ることはなく、健常な方はご自身の血糖値を知る機会も少ないと思います。スローカロリー研究会では動画などの情報を提供していただいていますが、理解度テストなど、視聴者や読者が血糖値を学習できるような工夫をお願いしたいと思います。

宮崎 本日は「WINGRAM」をはじめとするブルボン社の製品について、興味深いお話をお聞かせいただきました。スローカロリーの概念は、まさにこれから注目されてくるものと考えています。スローカロリー研究会は、活動やコンテンツにも工夫をこらしながら、少しでも多くの方が健康的な生活を送るためにも、スローカロリーな食品の開発をサポートすることで貢献していきたいと考えています。 本日はありがとうございました。

(本インタビューは2022年5月にオンラインで行われました)